- 作者: 増田俊也
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/09/30
- メディア: 単行本
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(今回は図解はありません)
この本を読了しました。途中何度も目頭が熱くなりました。最強の男の余りに切ない人生。
本書は自身も柔道経験者である筆者が、戦後格闘技界の大事件である木村政彦vs力道山の対決を軸に、戦前戦後の格闘技の歴史を10年以上にわたる綿密な取材の元に紐解いた良書です。特に格闘技ファンというわけでもない僕でも分かりやすくて楽しめました。関係者の直接証言と一次資料に徹底的に拘った取材は鬼気迫るものがあります。
会長酒井忠正 (横綱審議委員会委員長 )理事長※元貴族
新田新作 (新田建設社長 )※国粋会新田組
常務理事林弘高 (東京吉本社長 )
永田貞雄 (日新プロダクション社長)※山口組
吉田秀雄 (電通社長 )
古荘四郎彦 (千葉銀行頭取 )
顧問萩原祥宏 (右翼団体元黒竜会 )※反社
出羽海秀光 (相撲協会理事長 )
29歳にして、政治、財界、裏社会、メディアを巻き込んで、売れるかどうか分からない「プロレス」という新しいコンテンツを大々的に売り出す。しかも主演は自分自身。敵には日本最強の男、鬼の木村を引っ張りだしてくる。(シャープ兄弟戦前の知名度・人気は木村のほうが上だった)そんな豪腕の人物、いまの29歳にいるでしょうか?
一方の木村政彦は、格闘技には天賦の才があっても「身を立てる」才能には欠けてたようです。師匠の牛島辰熊との修行で天覧試合を征した後は、猛練習をすることもなくなり、自分の若い頃にした努力の貯金を取り崩していく人になってしまいます。
その貯金が尽きたのがまさに、力道山との「昭和の巌流島」と呼ばれるあの闘い、まさにこの本のメインテーマの試合でありました。
結果は、卑怯で臆病な力道山による一方的なブック破りで終わります。しかし、木村政彦は力道山の反則に負けたのではありません。力道山が用意したリングに上がらなければならなかった時点で、もう負けていたのです。「実力」とは、単に殴る蹴るの強さだけではなく、その他全ての要素を含んでのものだからです。勝つために、力道山は必死に考え、あらゆる手を尽くし、努力した。木村政彦はそれをやらなかった。
仕事でも同じことが言えると思います。頭がいいだけでもダメ。行動力があるだけでもダメ。技術があるだけでもダメ。お金を持ってるだけでもダメ。人に好かれるだけでもダメ。いろんな要素を高めていって、成果が得られるのだと思います。
もちろん、木村政彦が柔道で前人未到の不敗記録を打ち立てたように、あるいは他の分野の天才たちと同じように、ひとつのことの並外れた才能は必ず成果をもたらします。仕事でも同じことはいえます。しかし、そんな天賦の才をもってしても、努力をやめてしまったら勝ち続けることは出来ないという真実。むしろ天賦の才がなくても、ひたむきに考え、努力すればやはり結果は出るのだと思います。